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高松高等裁判所 昭和55年(行ス)3号 決定

抗告人 高松市

代理人 武田正彦 孝橋雅太郎 ほか二名

相手方 多田良一 ほか二名

主文

一  原決定を取消す。

二  相手方らの本件文書提出命令の申立を却下する。

理由

(抗告の趣旨及び理由並びに相手方らの意見)

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙第一ないし第三に各記載のとおりであり、これに対する相手方らの意見は別紙第四記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一件記録によれば、相手方(原告)らの前記本案訴訟(仮換地指定処分取消請求事件)における主張の要旨は、相手方らは、抗告人(被告)の施行する香川中央都市計画事業太田第一土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)において、抗告人から昭和五四年六月一日相手方らの共有地につき仮換地指定処分(以下「本件処分」という。)を受けたが、右本件処分は、第一に土地区画整理法八九条二項所定のいわゆる照応の原則に反する違法なものであり、第二に差別的指定であつて違法なものであつて、右いずれの点からしてもその取消を免れないというにある。そして、相手方らの主張する右各違法の原因は、抗告人は、本件処分の前段階において、相手方らに対し、昭和五一年五月一四日、本件事業における相手方らの共有地に対する仮換地指定案及び図面を供覧させてその趣旨説明をしたが、その際相手方らに対する仮換地の予定地として、相手方ら共有地の南方約八メートルの土地を示したので、相手方らは右予定地が照応の原則に合致するものであつたことから基本的にはこれを了承したものの、右共有地上に三戸の建物(貸家)があり、この建物全部を右予定地に収容するには予定地の奥行を狭め、間口を広げる必要があつたので、このことを口頭で抗告人の係員に要望したところ、強く拒絶されたこと、そこで、相手方らは、右要望を書面化して意見を述べるべく、その意見書を作成するため、同年六月五日再度図面を閲覧したところ、前記予定地が相手方ら共有地の北方約二〇〇メートルの、ブロックを異にする不整形で、しかも隣地に鉄工所のある騒音のひどい土地に変更されていることが判明したこと、右予定地の変更は、香川中央都市計画事業太田第一土地区画整理審議会(以下「本件審議会」という。)の委員である佐藤進及び西原鶴市が自己もしくは自己の親族の利益をはかるため、その職権を濫用し、相手方らの当初の仮換地予定地を他へはじき出すことを内容とする修正意見を作成し、抗告人の担当者もこれと共謀したか少なくともこれに迎合して同年六月一日の審議会において、実質的な審議をしないまま右修正意見どおりの意見を答申し、抗告人が右答申どおりの本件処分を決定をしたことによるものであるというにある。そして、相手方らは、「審議会の審議の内容、換地計画の方針、昭和五一年六月一日に開かれた審議会の審議内容」を立証するためとして、抗告人の所持する「審議会議事録一切」(以下「議事録」という。)を民事訴訟法三一二条三号前段又は後段に該当する文書であるとして、その提出命令の申立をし、原審は右議事録が同法三一二条三号後段の文書に該当するとして、その提出を命じたものであることが記録上明白である。

そこで、まず、本件審議会の議事録が民事訴訟法三一二条三号後段に該当する文書であるかどうかについて検討する。民事訴訟法三一二条三号後段にいう「挙証者と文書所持者との間の法律関係に付作成された」文書とは、挙証者と文書所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書のほか、右法律関係と密接な関係のある事項を記載した文書で、これを提出させることが当該文書の性質に反せず、訴訟における当事者間の信義、公平に適し、かつ、裁判における真実発見のために重要な場合にはこの文書も右法条三号後段の文書に含まれると解するのが相当である。

ところで、記録によれば、本件審議会は、抗告人が施行する本件事業地区内の宅地所有者等により選挙された委員等によつて組織された抗告人の諮問機関であつて、抗告人の諮問に応じて意見を提出するものであり、そして議事録は、本件審議会が右諮問に応じ抗告人作成の換地計画等につき意見を提出するため審議した審議経過を記録した文書であつて、相手方らと抗告人との間の法律関係を記録した文書ではなく、専ら本件審議会の内部における事務処理のため作成される覚書的記録文書であり、その作成を義務づけるものは本件事業施行条例施行規則及び本件審議会会則に規定があるに過ぎない。そして、更に、記録によると、本件審議会の審議は非公開であつて、その議事録は一般の縦覧に供されていないし、また、本件審議会における各委員の発言、討議の内容等が公表されることになると、関係権利者の各委員個人に対する不満や非難を喚起する事態も予想され、審議会における各委員の公平、かつ、自由な討議に支障をきたすおそれがあるばかりでなく、関係者のプライバシー等に関する事実も公表される結果となる可能性があることが認められる。

以上の諸点に鑑みると、本件審議会の議事録は、本件処分の成立過程において作成された文書ではあるが、本件審議会が自己使用のために作成した内部的覚書的記録文書であつて、前記法律関係との関係において密接なものとはいい難く、また、右議事録は、本件処分の適法性についての立証責任及び証拠方法の代替性等に徴し果して本件訴訟の審理にとつて重要な証拠となり得るものかどうか疑わしいし、抗告人及び第三者の意思又は利益に反してまでも本件の議事録を提出させるべきものとも認め難い。そうすると、右議事録は、民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当しないというべきである。

次に、右議事録が民事訴訟法三一二条三号前段に該当する文書であるかどうかについて判断する。民事訴訟法三一二条三号前段にいう「挙証者の利益のために作成された」文書とは、当該文書により挙証者の法的地位、権利ないし権限が明らかにされるものをいい、それが挙証者の利益のためにのみ作成された場合に限られるものではないと解するのが相当である。

ところで、本件審議会の議事録は、前記のように本件審議会がその内部における事務処理の必要のため作成される覚書的記録文書であつて、挙証者である相手方らの利益のためにも作成された文書であるとは到底いえないし、また、本件処分に関する相手方らの法的地位、権利ないし権限が明確にされる性質の文書とも認め難い。従つて、本件審議会の議事録は、民事訴訟法三一二条三号前段に該当する文書でないことが明らかである。

(結論)

以上説示のとおりであつて、本件文書提出命令の申立は理由がないから、これを認容した原決定を取消し、右文書提出命令の申立を却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 越智傳 山口茂一 川波利明)

別紙一ないし四 <略>

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